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さらに、今回の視察で興味をそそられたのは、北欧と言うと第一番に思いつく高福祉高負担の国がどんなものかと言う点であった。
わずか4日のノルウエーの滞在では、人々の生活それ自体をつぶさに知ることはできなかったが、しかし、ガイドさんの説明で種々の実状を聞くことができた。
昨年、ノルウエーの降雪が少なかったことにより主力発電である水力発電量が不足し、このため、隣国のスエーデンから買電を余儀なくされ、電気料金が別料金体系となり今年の電気代は平年に比べ異常に高いこと、この国では、夫婦共稼ぎが普通であること、人々の食生活は至って質素であること、個人主義が徹底し老後でも家族の世話には一切ならぬこと、家族を持つと家、車をローンで購入し、夫婦共稼ぎでもその返済で生活が楽でないこと、しかし、ヨット、モーターボート等での海洋レジャーの普及率は高いこと、毎年年末には貯蓄高を自ら申告し、その額に応じた税金が徴収され、このため年越しの金を持たぬと言う習慣があること、大学進学にあたっても授業料の心配は不要なこと、女性は化粧品が高く化粧をしないこと等ノルウエーの国民生活の優劣こもごもの実態を聞いた。
また、この国では、北海油田、漁業問題をかかえ、この利権保護のためEUには参加していないこと、さらに、帰国前夜のパリ、ムランジュールで楽しみを与えてくれた美しき踊り子達は、ほとんど北欧人であることも知った。
帰国後、興味を持って読んだ北欧に関する書物からは、1970年代、北欧全般に男女機会均等の運動が起こり、特に、デンマークでは、「男らしさってなに、女らしさってなに」などが国会で、職場で、家庭で、教育の場で熱っぽく論議され、また、女性解放運動家の闘士は、「股の間に何があるかが問題でない。耳の間に何があるかだ」をスローガンに社会的な女性差別を厳しく批判したことを知った。ノルウエーの有名な戯曲家イプセンは、遠く1879年に「人形の家」を書き起こし、男に隷属する女性の自覚を啓蒙した。これらのことから、女性が化粧をしないのは経済的理由ばかりでなく、1970年代の運動の名残で、男性と同等の立場を保持する手段の一つではないかとも思われる。
ここに列記した事例に対する価値判断は、個人個人の判断にまかされるが、我が国でも、近い将来、男女の機会均と福祉の充実、それに伴う高負担への道は着実に進行して行くものと思われる。その先例を今回の視察旅行で垣間見て、勉強したことも大きな収穫であった。

 

日本海土起重技術協会設立10周年記念事業として海外視察を企画され、自ら団長として参加されました吉村真事会長に御礼申し上げると其に企画を全面的にバックアップして、調査目的を成功裏に導かれ、かつ、その成果を取りまとめていただきました鳥取大学上田茂先生に対しても深甚なる感謝の意を表します。

 

 

 

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